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蝉と自然

日々の雑感
08 /19 2010

猛暑の夏はまだまだ続きそうです。熱中症に注意しながら、夏にちなむ話題を一つ。

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羽化した後の油蝉です。

発見は午前6時前後。とあるお宅の門柱の、抜け殻から数センチ離れた場所で見つけました。しかも、門柱の地面に近い位置です。通常なら、蝉は日没前後に地面から出て午後8時から12時ごろに羽化が始まります。それが全体的にかなり遅れ、高い位置まで登れないまま日付が変わってから羽化に入ったのでしょう。このため、もう飛び立っているはずの時間に、まだ体や羽がやわらかい状態で発見されたということになります。写真は我が家にご足労願い撮影したものです。最初の撮影後は梅の木に止まらせました。

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2時間後。羽はまだ薄さが残ります。時間がかかりますね。

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3時間後。頭部は黒味を増してきましたが、羽はまだ完全とは言えません。

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4時間後。早く飛び立て~。

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6時間後。羽も体も飛び立てる段階のはずですが、まだ動こうとしません。

この遅れは一体何に起因しているのでしょう?蝉を見つけた場所は道路沿いの家の門柱でした。蝉は幼虫のまま地下で7年間過ごすとされています。地下にいる間に、自分の頭上がコンクリートで固められたとしたら、地面から出られるはずが岩盤に突き当たり、右往左往するはず。ようやく土のある場所に到達した頃には、時間も経過し体力も尽きかけ、高い位置に登れないまま羽化のタイミングとなってしまった、といった状況が想定されます。だから遅い時間帯に羽化し、さらに時間が経過してもなお、飛び立てるまでに至らないのでしょう。

しかしこの蝉も、頭上がアスファルトで固められ、世に出ることもなく地下で無残に息絶えた仲間たちと比べれば、日の目を見られただけでも幸せです。
これを自分の身に置き換えてみると、とても耐えられない状況だと思います。真っ暗な中から何とか這い出そうと必死にもがいても、頭上には常に巨大な壁があり、遂には闇の中で力尽きてしまうなんて…、本当に厭ですね。

この蝉が置かれた状況は、人間の営みが、自然界の営みを分断し破壊するとても小さな、けれども重要な一例のようにも思えてきます。

酔石亭主が敬愛する作家に光瀬龍氏がいます。氏の『百億の昼と千億の夜』は今も日本SFの最高峰だと思うのですが、氏はまた「ロン先生の虫眼鏡」(早川書房)という本で、ハチやフクロウの生態を驚異的な観察力で書き綴っています。この本にも氏独特の無常観が見られるのですが、次の一節は今も心に残っています。時代は昭和48年、場所は鎌倉の腰越一帯で、夜の猛禽類フクロウが犬に吠えられ、狩場を追われる場面に関する氏の感慨が書かれた部分です。

「フクロウと犬、というおそろしく生活様式の異なった二種類の生物が、数メートルの距離をへだてて出会うということの裏には、そうなるまでに、どのくらい大自然が多くの構成要素を失い、バランスを狂わせ、荒廃を深めていったか、はかり知れない自然破壊の事実の積み重ねがあったはずだ。知らずに見過ごしてしまうような小さなできごとが、背後にひそむ決定的なできごとを暗示している」

光瀬龍氏の考え方酔石亭主にも影響を及ぼしたようです。例えば秦氏の謎に関しても、彼らの何気ない行動や、歴史書のちょっとした記述の背後に、何か決定的なできごとが潜んでいるのではないか、と考えるようになりました。そんな視点から調べていくと、彼らの根源にあるものが見えてくるように思えるのです。

この本は多分絶版になっているのでしょうが、動物観察記を越えた奥深い内容があり、示唆に富んでいて、一読の価値があります。手にする機会があればぜひお読みください。(漫画にもなっていますが、もちろん原本で)
なお光瀬龍氏は1999年享年71才にて惜しくもご逝去されました。合掌。

7時間後、蝉の姿はありませんでした。
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酔石亭主

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