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夏の思い出


子供のころ海は身近にありました。春はアサリ、ハマグリ、赤貝など様々な貝類が獲れました。砂浜の小さな穴は貝ですが、大きな穴はシャコの住処。二つ離れた穴に同時に手を入れて、ゆるりと中心を目指します。シャコは甲殻類の仲間で、甲殻の鋭い部分が手に刺さります。注意して掴みズボッと引き抜けば一丁上がり。でも、数は少なく食べるのを楽しむには至りませんでした。

夏は水中メガネ一つで海に入ります。すると世界は一変。海藻がゆらゆらと揺れ、その間を魚がすり抜けていくのです。小さな銛で魚を突こうとしても、素早さにとても追いつきません。

魚は諦めて、海藻の下を足で探ります。すると、ワタリガニがいるのです。ハサミで挟まれないよう注意して掴み上げ籠に入れます。ワタリガニは決まったタイプの海藻の下にいることを誰も知らないらしく、海藻を探せば必ず獲れました。10杯も獲れれば大収穫。意気揚々と帰ったものです。

魚ではハゼがよく釣れました。石を積んだ堤防の先端から釣り糸を垂れれば、ダボハゼの言葉通りに小さなハゼが数多く上がります。赤潮の日など海に色々な魚がぷかぷか浮かんでいますから、手掴みでバケツ一杯の魚が獲れました。

時にはナマコの大群が海にやってきます。1時間ほどで数十匹も捕獲すれば、母親が酢味噌和えにして夜の食卓を飾ります。こりこりした歯触りが食欲をそそり、沢山食べたものです。

夜光虫の夜は海が青白く光り、この世のものとも思えないほど幻想的でした。そんな海も経済の発展とともに埋め立てられ、工場が建ち並び、今では跡形もありません。

初夏には川面を蛍が飛び交いました。夏の朝になると、クヌギなどの樹には樹液を求めてコガネムシやクワガタ、カブトムシが集まります。昆虫たちの饗宴に何度歓喜の声を上げたことでしょう。
この場所は酔石亭主の秘密の採集場所。一人で全部独占できたのです。でも、いつしか一匹も来なくなりました。

貧乏だったあの頃ですが、実はとても豊かな自然に恵まれていたのです。時計の針を巻き戻してあのころに戻りたいと思っても、時間の持つ不可逆性は変えられない。今はただ、遠い記憶を辿るだけなのです。

さて、貧しいが豊かな自然の恵みがあったあの頃。経済的には比較的豊かになったが、自然からは遠くなった現在。どちらが自分にとって、本当に豊かなのでしょうね。
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