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尾張と遠賀川流域の謎を解く その38


前回までの検討により、道行の草薙神剣盗難事件は捏造だったとほぼ確認されました。けれども、道行の逃げた場所が日本武尊の関係地だったから捏造だと断定するのはまだ早すぎるような気もします。と言うことで、捏造の証拠をさらに拾い上げていきましょう。

草薙神剣が熱田神宮に返還されるまで一時保管されていた場所は、阿遅速雄神社、石上神宮、遠賀川流域の各社(岡垣の高倉神社、立屋敷八剣神社、中山八剣神社、古物神社)などがあり、一体何振りの草薙神剣があったのか訳がわからないことになってしまいます。こうした複数の伝承があること自体、盗難事件の捏造の証拠ではないかと思えてきます。

では、なぜこんな捏造を創作したのか?天智天皇が即位した668年、天皇家に草薙神剣を手に入れたいとの強い意志が芽生えたと仮定してみます。草薙神剣は天皇家の三種の神器の一つはずなのに、宮中ではなく熱田神宮にて祀られています。この剣を接収するには、当時の大豪族・尾張氏を説得する必要がありました。天皇家はどのように説得して剣を接収し、せっかく手に入れた剣をまた返還せざるを得なかったのか、それらを推理してみましょう。(注:既に書いた内容も含んでいます)

皇太子のまま政務を執っていた中大兄皇子は、668年(天智天皇7年)に即位しました。天皇の即位は様々な変化の契機になり得ます。草薙神剣を朝廷の管理下に置く絶好の機会ととらえた天皇家は、新たな天皇の即位を理由に尾張氏を無理やり説き伏せ、神剣を接収したと推定されます。盗難事件の発生年(668年)は天智天皇の即位年。この状況を踏まえると、盗難事件は捏造であったとの見方が強まるように思えませんか?

「日本書紀」が668年の最後の記事に事件を充て、11月のはずなのにそれも曖昧にして「この年」と記述したのも、事実関係を知る編者が苦し紛れに書いたと考えれば納得のいくものとなります。

ではなぜ次の天武天皇の時代に、しかも崩御目前のタイミングで、神剣は熱田神宮に返還されたのでしょう?天武天皇は壬申の乱で勝利して天皇の位についたことで有名です。尾張氏は672年の壬申の乱において大海人皇子(後の天武天皇)を支援しました。例えば尾張大隅は自分の私邸を大海人皇子の行宮に提供しています。そうした尾張や美濃の軍勢の協力で大海人皇子は戦いに勝利し天皇に即位できたのです。尾張氏は自分たちが奉斎する神剣の返還を求める好機だと考えたのでしょう。

ところが、天皇は求めに応じず神剣は返還されないままとなりました。朝廷は多分、尾張氏を軽く見ていたのです。尾張氏にしてみれば、恩を仇で返されたようなもの。それが祟ったのか、或いは尾張氏が天皇の病の原因を神剣とするよう噂を流したのかは不明ですが、いずれにしても病の原因は草薙神剣にあると占いに出て、朱鳥元年(686年)の返還となるのです。祟ったのはどう考えても、神剣それ自体ではなく、神剣を取り上げられ、その後天武天皇に貢献したのに神剣を返してもらえなかった尾張氏の恨みや怒り以外にあり得ません。

そうした推定経緯を経て神剣は返還されました。問題は朝廷のメンツです。尾張氏の恨みにたじろいで神剣を返還したのでは、メンツ丸潰れとなります。そこで両者の間で妥協が図られ、道行が盗んだと言う神剣盗難事件が捏造されました。神剣は盗まれたものの、すぐに取り戻され、その旨が朝廷に報告があったので一時宮中で預かっていた(或いは石上神宮で保管していた)とのストーリーが作られます。そして、天武天皇の病気に神剣が祟ったなどと言う、かなり仰天な理由まで付けられたのです。

多分、神剣の返還時点で天皇は既に病気が進行し手の施しようのない状態になっていたのでしょう。意識朦朧の天皇では、何が話し合われたか認識するなど不可能で、そうした時点を狙って神剣の祟りと言った話が作られたのです。

当初は盗難事件の骨格部分のみだったものが、後代になって熱田神宮側の手により、道行が日本武尊の関係地を転々とした話も付け加えられたように思われます。事件の発生年から神剣の返還年(天武天皇の崩御年)までに18年経過していることから、道行は既に死去していたのかもしれません。死人に口なしで、寺への報償と引き換えに罪が彼になすり付けられたのでしょう。

さて「その35」の注で、出雲建雄神社の由緒に草薙神剣の現物があったと書かれていない理由は、後の回で検討します。と記載しました。出雲建雄神社の由緒が草薙神剣の存在を示しているにもかかわらず、現物を明記しなかった背景には、盗難事件まで捏造して草薙神剣を返還せざるを得なかった朝廷の事情があったと思われます。朝廷と尾張氏の交渉において、朝廷側を譲歩させた尾張氏に対し、物部氏側も一定の配慮をせざるを得なかったのです。それが、実際には出雲建雄神社に草薙神剣の現物があっても、あるとは由緒に書けなかった理由になりそうです。

神剣盗難事件が捏造だとほぼ断定できそうな所まで来ましたが、捏造と考えられる具体的な証拠も愛知県知多市の法海寺にあるので見にいきます。(注:話があちこちに飛んでいますが、古物神社における草薙神剣盗難事件の伝承に関連して書いている点お含み下さい)

            尾張と遠賀川流域の謎を解く その39に続く
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