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尾張と遠賀川流域の謎を解く その39


今回は草薙神剣盗難事件に関係する法海寺を見ていきます。住所は愛知県知多市八幡平井24。(注:法海寺に関しては「熱田神宮の謎を解く その3」にてもご紹介していますので、参照ください。今回は主要なポイントに絞って書いていきます)


所在地を示すグーグル地図画像。

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法海寺山門。

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石柱を拡大。

天智天皇勅願所と刻まれています。勅願所とは時の天皇・上皇の勅願により、鎮護国家・玉体安穏などを祈願する神社や寺院を意味します。天智天皇の御代に日本最高の宝の一つを盗み出した道行が、よりによってその天皇の勅願で寺を建てられるはずがありません。

これは現代においてもあり得ない事態です。少し前に日本で似たような事件が起きました。2012年に韓国人窃盗団が対馬市の神社や寺院から重要文化財の仏像などを盗み出したのです。驚いたことに韓国の裁判所は盗難仏像の返還を拒否する決定を下しています。この事件により、日本の嫌韓感情は非常に高くなりました。

対馬市の仏像盗難でも非難の声が日本全体で高まるのですから、国宝のさらに上を行く草薙神剣を盗んだとしたら、極刑は免れないでしょう。実際、「尾張国熱田太神宮縁記」では斬刑に処せられたとなっています。仮にそうだとしたら、死を賜った道行が法海寺を創建するなど不可能ですし、斬刑とならなかったにしても法海寺が天智天皇の勅願所になるはずがないと思われます。しかも、天智天皇は親百済の政策を推進した天皇として有名です。その天皇の時代に新羅の盗っ人僧が寺を開基するなど絶対にあり得ないのです。

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楠の巨木と境内。

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三重塔心礎石。天智天皇との関係を示すかのように、天智年間とあります。

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解説板。

盗難事件の関連部分を以下に記載します。

法海寺の開基は、新羅国明信王の太子道行法師といわれ、由緒は「日本書記」巻二七の天智天皇七年の条につながっている。そこには、「沙門道行、草薙剱を盗みて新羅に逃げ向く、而して中路に雨風にあいて、荒迷ひて歸る」と道行の名前が登場している。後世に編纂された寺伝の「薬王山法海寺儀軌」によれば、この後、沙門道行は帰国を断念して当地に堂宇をいとなんでいた。そして、天智天皇の御不例(病気)を当山ご本尊に祈願して平癒した功によって、「薬王山法海寺」の勅額と寺田二八〇町歩を賜った。時に、天智七(六六八)年、八月三日の創建とされ、…以下略

「日本書紀」によると、道行は668年の11月に神剣を盗むと言う重大な犯罪を実行した訳ですが、解説板では、その後帰国を断念し同年8月に当地で堂宇などを営み天智天皇の病気平癒祈願をしたとなっています。一読して時系列や内容に無理・矛盾があると理解されます。(注:既にご存知のように「日本書紀」には11月の項の中に書かれていながら、内容面では「この年」とあり、何月の話か曖昧にしてあります)他の史料を見てみましょう。知多市歴史民族博物館にてチェックした「知多市誌」には以下の内容が書かれていました。

白鳳時代の古瓦が出土する法海寺の開基は、新羅国明信王の太子の道行法師といわれ、由緒は「日本書紀」巻27の天智天皇7年の条につながっている。すなわち「沙門道行、草薙剣を盗みて新羅に逃げ向く、而して中路に風雨にあいて荒迷(まど)いて帰る」という一節である。その後それを敷衍(ふえん)した寺伝は、弘法大師の選文といわれる法海寺儀軌にのべられているのであるが、道行法師が多美州(尾張の古名)星崎の浦の土牢に因致されるなどの経緯があったのち、帰国を断念して当地に堂宇をいとなんでいたという、その後、天智天皇が不予にわたせられたおり、当山御本尊に祈願された結果ただちに効験あり、「薬王山法海寺」との勅額とともに、寺田280町をたまわったと伝えている。

道行が星崎の浦の土牢に因致されたとあります。この場所は笠寺台地(松炬島)の南端部に当たり、尾張氏の当初の本拠地でした。上記によると、神剣を盗んだ結果土牢に因致され、その後帰国を断念して当地に堂宇を営んだことになりそうです。こんな重大犯罪を実行しながら、帰国を断念もないと思われますし、堂宇を営むなど許されるはずがありません。法海寺の創建が盗難の先だと仮定した場合でも、天皇の平癒を祈願し快癒したので勅額と寺田を賜った人物が、同じ年には日本国最高の宝物を奪うなどあろうはずがなく、かなり無理のある縁起内容となっています。

時系列的には道行が天智天皇の平癒を祈願し快癒したので勅額と寺田を賜り、天皇の勅願所となり、天武天皇の崩御後に草薙神剣盗難の犯人役を、その時点で既に死去していた道行に当てさせたとした方が筋は通ります。いずれにしても、道行の法海寺創建と草薙神剣の盗難事件は全く関係がないとすべきでしょう。

「薬王山法海寺儀軌」には、沙門道行は、新羅の国の明信王の太子で、三種神器の一つを盗みだせば、日本と新羅の対立関係に影響を与えることができると考え、草薙神剣を盗み出したが失敗し、尾張の星崎の浦(松炬島で今の笠寺台地)の土牢に幽閉され、帰国を断念して当地に道宇を営んで修行重ねていた。天智天皇の体調不良の折に、當山御本尊に回復を祈願したところ効験著しく、「薬王山法海寺」の勅額と寺田280町を賜ったとの趣旨の記述があります。この話も時系列や内容に無理がありそうです。

時系列以外にも疑問があります。「その36」で盗難事件の起きた天智天皇7年(668年)11月における「日本書紀」の記事を原文と現代文で紹介しています。これを読むと明らかに日本側は新羅との関係改善に動いていますし、新羅側もまた同様です。そうした中、なぜ道行が両者の関係を壊すような動きに出るのでしょう?道行は沙門とされていますが、新羅の王子との説もあります。彼の立場がどのようなものであれ、この場面で両国の関係をこじらせるような挙に出るなどあり得ないと思えませんか?

尾張名所図会には、「天智天皇の体調不調の際、勅詔によって、沙門道行を、奈良春日明神へ祈誓させると、春日明神自ら、法海童子と称して、霊木を以って薬師の尊像を彫刻し、道行に授けると、光明を放ち霊感あらたかな薬師像となり、天智天皇が平癒された。これを道行持ち帰り、この薬師像を本尊とし、當寺を草創する。勅使を以って山號、寺號の勅額を下し、薬王山法海寺が誕生した。天智七年以降、この地を寺本の庄と號する」とありました。この内容なら、道行の法海寺創建と草薙神剣の事件は全く関係がないと言い得ます。

何度も書きますが、尤(まこと)に是れ天璽(あまつしるし)なり、とされる草薙神剣を盗み出した大罪人が、天智天皇の病気平癒を祈願するなどあり得ないし、法海寺の開基を許されるはずもありません。今までの検討内容からすれば、やはり道行の法海寺創建と草薙神剣の事件は全く関係ない話と考えるのが妥当なように思えます。そして道行の死後、寺への報償と引き換えに罪を道行になすり付けたのです。

道行の盗難事件自体は朝廷と尾張氏の合作による捏造だとしても、それぞれの場所設定は尾張の熱田神宮側の手による可能性があります。尾張氏は朝廷による事件の捏造を了承し、後代になって熱田神宮が縁起的な装飾を施し、ドラマティックなものに仕立て上げたのでしょう。その場合、阿遅速雄神社は「尾張国熱田太神宮縁記」の記述を、古物神社は「朱鳥官符」と「熱田太神宮正縁記」の内容を取り込んだ可能性が指摘されます。(注:「尾張国熱田太神宮縁記」の成立年代は寛平2年(890年)と奥書にありますが、実際には鎌倉初期、早くても平安末期の1180年代前後となりそうです)

「朱鳥官符」の成立に関しては「熱田神宮文書 千秋家文書」で見ると、当時のもの(朱鳥年間)とは考え難きも、との前文が書かれており、いつになるか不明です。一方、内容面で神仏習合を想起させる記載(大威徳五大尊五大力の示現する熱田太神也)があり、早くても8世紀の終わり以降に書かれたと理解されます。これら史料の内容を取り込んだ形で遠賀川流域の神剣盗難事件関連伝承が成立したとしたら、700年代の終わりから1100年代の終わり頃と幅の広い期間設定となってしまいます。いくらなんでも、これでは幅が広すぎるので、少し観点を変える必要がありそうです。

さて、ここまでの検討で草薙神剣盗難事件は捏造の可能性が高く、遠賀川流域に情報伝達されたのは700年代の終わりから1100年代になりそうとの見方が強まりました。けれども、岡垣町の高倉神社は熱田に倣って俗説では八剣宮と申し奉っていた訳で、尾張の八剣宮の創建は708年ですから上記の見方とは異なってくる可能性もあります。また高倉神社が「源平盛衰記」をネタ本にした場合、1250年以降となってしまいます。本当にややこしいですね。

               尾張と遠賀川流域の謎を解く その40に続く
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