FC2ブログ

『旧約聖書』創世記の謎を解く その3

『旧約聖書』創世記の謎を解く
06 /13 2010

カインとアベルの物語の内容は大略以下の通りです。
カインは地の産物を神への供え物として捧げます。弟のアベルも同様に供え物を持ってくるのですが、神はカインの供え物を無視し、アベルの供え物だけを顧みます。せっかくの気持ちをないがしろにされたカインは、憤って顔を伏せました。(そんな扱いを受けたら憤るのも当然ですね)

これに対する神の言葉は、誰も理解できない不可解なものです。神はカインの態度をあれこれ問い詰めて、自分が正しいなら顔を上げろと言います。次の場面で、カインはアベルを野原に誘い出し、殴り殺します。

そこで再び神が登場。アベルはどこにいるのですか、とカインに問います。カインは知らないと答え、それに対して神は、「弟の血の声が土の中から叫んでいる、今あなたは呪われて、この土地から離れなければなりません」と最後通牒を突きつけます。

この物語にどんな印象を持たれたでしょうか?誰が見ても、神がカインを陥れたとしか思えません。神に陥れられたカインは、地上をさまよう羽目となります。苦しむカインは、わたしを見つける人は誰でもわたしを殴り殺すでしょう、と神に訴えます。神は、カインを殺す者は誰であれ七倍の復讐を受けるとして、カインに印をつけました。一般にカインの印とは殺人者の烙印とされています。

神はカインをとことん陥れておいて、ここで急に彼の側に立つ。不可解極まりない神の態度ですね。以上この物語は、誰が読んでも矛盾だらけで混乱を招きます。

しかし、カインとアベルの物語にはとても深いメッセージが込められています。神は、ヒトを大地から更に離脱させるため、アダムの次にカインを創造しました。ところが、カインは決然とした態度で出離することができません。

神の詰問は、大地から出離できないカインへの苛立ちに満ち満ちているのです。だから、「今あなたは呪われて、この土地を離れなければなりません。この土地が口を開いてあなたの手から弟の血を受けたからです」などと、おぞましい表現になっているのです。

神はカインを大地から出離させるためだけに、アベルを設定しました。このためアベルは、人格も何もない存在として描かれています。そして、アベルはカインに殺され、アベルの血を吸った大地は実におぞましく恐ろしい存在と化し、ようやくカインは大地から出離する契機を得たのです。

ですから、カインの印とは、殺人者の烙印などではなく、ヒトの大地からの離脱を象徴する印だったのです。

創世記の物語は、巨人の話を経て、誰でもご存知のノアの方舟に入っていきます。洪水伝説は、大地とヒトを洪水によって完全に切り離そうとする物語です。ヒトを含む全生物は洪水で一旦死に絶え、方舟から再生しました。ノアの方舟の主題もヒトの大地からの離脱ですが、その中には必然的に死と再生というテーマが含まれています。

その次がノアからの系図で、続いて出てくるのがバベルの塔の物語です。これは人間が高慢となり、天にまで届くような塔を作ったので、神が彼らの言葉を乱し、全地に散らした―という物語のはずですが、どう解釈すればいのでしょう?

バベルの塔はバビロンのジッグラト(聖塔=神殿)をモデルとしています。ジッグラトはシュメールを起源としており、神が降臨しそこで休息するための場所で、ヒトのためのものではありません。その塔を、自分たちの統合の象徴とし、そこに定着しようとするのは、ヒトにとって当然な、しかもささやかな願いで、決して高慢などではなく、処罰の対象にはならないはず。

この物語を何度読み返しても、塔を建てようとしたことが問題になっているとは思えません。どう考えても、彼らが一つの民で、一つの言語であるのが問題となっているように見受けられます。ところで、私たちは日本語で話し合っていますが、それはなぜでしょう?

答えは簡単ですね。私たちは日本の地に生まれ育った日本人で、両親もまわりも皆日本語を使っているから日本語で話し合っているのです。言葉というものは、ヒトが生まれ育った大地に規定されています。言い換えれば言葉は大地に呪縛されています。

大地である神は、ヒトを自分以上の高みに昇らせようと切に願っているのではないでしょうか。けれどもヒトは、神の意志に背いて大地に定着しようとしました。それは、神の意図するところではなかった。そこで神は、彼らの言語を乱して、全地に散らし、町の建設を止めさせ、大地への定着を妨げたのです。ですからバベルの塔は、人々の定着の象徴に他なりません。

ヒトは大地によってヒトになりました。そこからヒトを切り離すのは、神をもってしても絶望的なほどの努力を要するのです。この点を誤解すると、創世記の物語は、まるで意味不明な文字の羅列になってしまうでしょう。

バベルの塔もまた、ヒトの大地からの出離を象徴する物語でした。神はイスラエルの民を大地から切り離します。彼らは大地から切り離された流浪の民となりました。これは神によって決められた定めであり、宿命なのです。ディアスポラ(離散民族)ですね。

創世記において、神は、蛇と土(大地)を呪われる存在とします。神は自らを呪われる者と化してまで、自ら生み出したヒトを、大地すなわち神から出離させようとしているのです。ヤハウェ神が一貫して示す深い絶望感や強烈なジレンマ、矛盾、分裂は、自分の身を引き裂くような思いから発せられたに違いありません。

創世記に示された数々の不可解な記述。それらの隠れた主題は、ヒトの大地からの出離でした。そしてそれは、大地である神自らが望んだことでもあったのです。

          ―『旧約聖書』創世記の謎を解く その4に続く―
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

酔石亭主

FC2ブログへようこそ!