尾張氏の謎を解く その46


天火明命の最初の降臨場所は、前回の検討から凡海郷と志楽郷になり、彦坐王の動きと一致していました。残欠における次の天火明命関係記事は「二石崎」で志楽郷の中に含まれます。具体的には以下の通り。

二石崎
二石崎は、古老の伝えて言うには、遠い昔、大己貴命(と少彦名命)が天下を平和に治めていたとき、二神が話し合いをした。白と黒の繊砂(細かい砂)を握り、天火明命に言った。この石は私の分霊である。あなたはこれをこの地にて奉斎しなさい。これにより、波が荒れても国内は穏やかである。天火明命は詔に従って、その霊石を崇めた。すると黒白が左右に分かれて、神験があった。それが二石崎である。後世になって地元民が瀬崎と言うのは誤りである。

瀬崎は誤りとありますが、瀬崎村は明治時代西大浦村となり、成生が大浦半島の東の突端部に対して、瀬崎は西の突端部に位置しています。


現在の瀬崎の位置を示すグーグル地図画像。

二石崎の記事は志楽郷の中に含まれているのに、実際の場所は凡海郷になると言う問題がここでも発生しています。残欠によれば凡海郷は701年の段階で海底に沈んでいおり、この記事が書かれた時点では存在していないのです。

けれども、記事の内容自体は凡海郷に相当する場所が存在している時代について書かれています。また加佐郡各郷の配置図を見ればこちらでも凡海郷は存在しています。これらの齟齬に頭を悩ました残欠の編者は、凡海郷に関する個別の記事を志楽郷の中に入れてしまったと推定されます。ある種の辻褄合わせですね。

二石崎の記事中、白と黒の繊砂が私の分霊である。と言う記述の意味は不明です。砂鉄を意味しているのでしょうか?後の文章では左右に黒白に分かれた霊石とあり、砂ではないような記述となっています。

内容面で悩ましい部分はありますが、天火明命の出現場所は凡海郷と志楽郷で確認できているので、残欠の次の記述に進みます。

高橋郷 本字 高梯
高橋と号した理由は、天香語山命が倉部山の尾根の上に神庫を造営して、種々の神宝を収め、長い梯子を掛けて神庫を料とした。それで高梯と言う。今でもなお、峯の頂きには神祠があり、天蔵と称する。天香語山命を祭る。またその山口に祠がある。祖母祠と称す。天道日女命が著しく老いてこの地に来て居ついた。麻を績ぎ、蚕を養い、人民に製衣の道を教えた。それ故に、山口に坐す御衣知祖母の祠と言う。


天藏神社が舞鶴若狭自動車道の舞鶴パーキングエリアの下あたりに鎮座しています。鎮座地は舞鶴市多門院材木奥303-1で祭神は天香語山命。舞鶴市堂奥宮ノ谷72-3には山口神社が鎮座しており、祭神は天道日女命となっています。倉部山は三国山でしょうか?

天火明命が天香山命に変わっていますが、「勘注系図」によると、天香語山命と天村雲命は父火明命に従って丹波国の凡海嶋(現在の冠島)に天下っているため、天火明命も同じ動きをしていると判断されますし、西に向かって移動している点は読み取れます。次の残欠の記事となる田造郷に移ります。

田造郷
田造と号した理由は、遠い昔、天孫降臨のとき、豊宇気大神の教えに従って天香語山命と天村雲命が当国の伊去奈子嶽(いさなごだけ)に天降った。天村雲命と天道姫命は共に大神を祭って、新嘗を執り行いたいと欲した。すると井戸水がたちまち変わって、神饌の用意ができなくなった。それ故に、泥(ひぢ)の真名井という。天道姫命は葦を抜き大神の心を占った。故に、名前を葦占山という。天道姫命は弓矢を天香語山命に授け命じて言った。その矢を三度放ち、矢の留まった所には必ず清い土地がある。天香語山命が命を受けて矢を放つと、当国の矢原山(やぶやま)に至った。山には根、枝、葉、が青々としていた。それで、その地を矢原(矢原訓屋布)という。その地に神籬を建てて大神を遷し祭り、懇田を定めた。巽(南東)の3里ほどの方角に霊泉湧き出した。天村雲命はその泉で潅漑したので、真名井と称する。また、かたわらに天吉葛(あまのよさつら、瓢箪)が生えている。その匏(よさ、瓢箪)で、真名井の水を盛り神饌を調進し長く大神を奉った。それで、真名井原、匏宮(与佐宮)と称する。春秋田を耕し、稲種を四方にあまねく蒔いて人民が豊かになったので、その地を田造という。


田造郷の記事には非常に多くの情報が含まれています。けれども現在は天火明命の動きを探っているので、豊受大神や伊去奈子嶽、真名井などに関しては後の回で書くこととします。上記の記事で現在のテーマと関係するのが矢原山の山麓には鎮座している笶原神社(やはら神社、残欠からすると、読み方はやぶ神社)です。


笶原神社の位置を示すグーグル地図画像。

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笶原神社境内。

ほとんど読み取れませんが、鳥居の扁額には総社笶原魚井匏宮(やはらまないよさみや)とあります。匏宮は与佐宮で天照大神の元伊勢与佐宮を意味するはずです。でも、そうした伝承はここには存在せず、残欠にある天香語山命(天香山命)の伝説成立は、籠神社が創建された養老3年(719年)以降のものと思われます。ただこれだけ詳しい話がある以上、伝説の元になった何かがあったと考えても良さそうです。

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社名を示す石柱。

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社殿。

さて、田造郷の記事の中にも天火明命は登場せず、天香語山命と天村雲命の名前が出ています。天香山命も天火明命同様鏡であり、天村雲命は天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)に象徴される剣であり、彦坐王の遠征部隊が奉じていたと考えられます。やや苦しい部分はあるものの、天火明命もいたと考え、残欠の次の記述に進みましょう。次の記事は有道郷となります。

有道郷 本字 蟻道
有道と号した理由は、遠い昔、天火明命が飢えてこの地に至った。そのとき、往くままに食料を求めていたところ、蟻に連れられ土神が穴巣国にいるのを見た。天火明神は食料を請い求めた。土神は喜んで饗応したので、天火明命は土神を褒め、これからあなたは蟻道彦大食持命と称するようにと宣した。それ故に、 蟻道(ありぢ)と言う。また蟻巣と言う神祠がある。今の世に、阿良須と言うのは訛である。 


福知山市大江町北有路高畑461には阿良須神社が鎮座しています。同社詳細は以下の玄松子さんホームページを参照ください。
http://www.genbu.net/data/tango/arasu_title.htm


鎮座地を示すグーグル画像。社名表示なく、宮津街道の南の森が鎮座地となります。

では天火明命の動きと対比するため、彦坐王の部分を以下に再度アップします。

川守郷
川守と名付ける理由は、遠い昔、日子坐王が土蜘( 陸耳や匹女(ひきめ))を追って、蟻道郷の血原に至り、先に土蜘匹女を殺した。それで、この地を血原と言う。


いかがでしょう?天火明命(と天香山命、天村雲命)は凡海郷と志楽郷を起点に高橋郷、田造郷を経由し有道郷に至りました。彦坐王も同様に凡海郷と志楽郷の青葉山を起点として、高橋郷、大内郷、志託郷を経由し蟻道(有道郷)、川守郷に至りました。志楽郷から有道郷に至るまで、両者はほぼ同じ動きをしていると理解されますね。これは、彦坐王に率いられた遠征部隊が鏡(=天火明命)を奉じていたから両者の経路がほぼ一致したと言う酔石亭主の主張を一定程度裏付けるものになりそうです。移動経路を以下のように纏めます。

彦坐王   凡海郷と志楽郷―高橋郷―大内郷と餘戸―志託郷―有道郷―川守郷
天火明命  凡海郷と志楽郷―高橋郷―田造郷―有道郷

(注:天火明命は天香山命分も含む)

両者の移動経路を見ると、東から西に向かっているような方向性が感じられます。ただ、現在までの検討範囲は加佐郡内に留まっています。丹後国には既に書いたように、与佐郡、熊野郡、竹野郡、丹波郡などがあり、天照大神の元伊勢与佐宮や豊受大神の降臨地、海部氏の拠点、伊福部氏の関連、笛吹連の関連など様々な要素が重層しています。これらの部分は当面のテーマからは外れるので、後の回で詳しく検討します。

ここまでの検討で加佐郡内における彦坐王と天火明命の動きがほぼ重なっていると確認できました。引き続き彦坐王と陸耳御笠の戦いを追いたいのですが、残欠の記述では陸耳御笠が最終的にどうなったのかは書かれていません。参考までに既にアップを終えた川守郷の最終場面を以下に再掲します。

その時、一艘の船が忽然と川を降った。土蜘を追って由良の港に至った。土蜘の所在は知れなかった。日子坐王は陸地で礫を拾って占ったところ、陸耳が与佐の大山(大江山)に登ったことを知った。それで、その地を石占と言う。またその船を楯原に祀って船戸神と称した。

由良の港に至って土蜘蛛(=陸耳御笠)の行方が分からなかったので、占ったところ大山(大江山)に登った、と言うところまで陸耳御笠の動きは判明しています。「勘注系図」でも、天香山命が、百八十軍神を率い退いて由良之水門に到った時に、父火明命に逢う、との記事があり、彦坐王と同じ場所に天火明命が出現していると確認されます。

         尾張氏の謎を解く その47に続く
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