尾張氏の謎を解く その73


今回は藤社神社のありようや位置付けを探ります。同社は、比治峠を下り平地に入ったすぐの場所に鎮座しています。川との関係で見ると、比治峠から発する川と磯砂山を水源とした川の合流点から下流が鱒留川で、その合流点から少し下流部に位置しています。


藤社神社の位置を示すグーグル画像。

川の次は山から見ていきます。藤社神社は磯砂山の一支脈が北に下った山麓に位置し、そのすぐ北は鱒留川によって区切られています。現在は神社と川との間に道路がありますが、古代においては山裾が鱒留川によって区切られる手前に藤社神社があったことになります。比治峠を下ってすぐの、手前を川で区切られ、山裾の正面が北側になる地理的に見て不便でしかも狭い場所が、かつての元伊勢であったとは思えません。

次に、いずれも元伊勢外宮を主張する藤社神社と比沼麻奈為神社の位置関係を見ていきます。鱒留川を挟んで藤社神社は磯砂山の側にあり、比沼麻奈為神社は久次岳側に鎮座しています。


久次岳と磯砂山の位置関係を示すグーグル地図画像。

両神社の元伊勢論争は、見方を変えると、磯砂山(伊去奈子嶽)と久次岳のいずれが外宮の故地に関係するのかという問いに置き換えることができそうです。そこで、二つの聖山が「丹後舊事記」にどう記載されているのかを見ていきます。

まず標高541mの久次岳(ひさつぎだけ、=咋石嶽)から検討します。「その69」、「その70」などで既に書いていますが、「丹後舊事記」に咋石嶽(くいしだけ、くしいしだけ)の項があり、この地は與佐郡の内にあったが和銅6年以降は丹波郡と成る咋村の後ろの山を言う、とあります。元伊勢与佐宮が与佐郡内に存在していたのは確定的ですから、久次岳側は元伊勢与佐宮である可能性を有しています。またこの所は宇気持神天降るの地なり、とあり、将来豊受大神に変容していく神の降臨地でもあります。

次が磯砂山です。「丹後舊事記」には咋石嶽に続いて比治山(磯砂山)の項があり、一山四名の地にして丹波郡なり。比沼山、足占山、磯砂山とも言い、豊宇賀能賣命天降の記に見るべし。とあります。比治山はこの郷の惣名(総称)とも書かれています。また、足占山は天女豊宇賀能賣命の行衛をしたうの故を以って名付けし云々とも書かれていました。久次岳と磯砂山の両方に豊受大神的な神格・名前を持つ神の降臨伝説があり、どちらを取るべきか頭を悩ませます。

比治山(磯砂山)に関して、咋石嶽のように元は与佐郡内にあったと書かれておらず、最初から丹波郡内であれば元伊勢与佐宮ではなくなりますが、磯砂山が五箇村に含まれていることからかつては与佐郡内と言えるかもしれません。全くややこしいですね。なお磯砂山の標高は661mですから、高さの面では磯砂山に軍配が上がります。

次に山の名前や周辺状況などから探っていきたいと思いますが、これも実にややこしくなっています。磯砂山(伊去奈子嶽)は比治山で真名井池があり、豊受大神降臨(「丹後舊事記」では豊宇賀能賣命)伝承があり、麓の峰山町鱒留の大路地区には乙女神社が鎮座しており、天女もいます。乙女神社の詳細はJR西日本の以下のホームページにうまく纏められていますので参照ください。
http://www.westjr.co.jp/company/info/issue/bsignal/06_vol_107/feature03.html

久次岳には真名井嶽などの別名や真名井の霊水もあります。さらに宇気持神の降臨伝承があり、麓には比沼麻奈為神社も鎮座しています。また八乙女(巫女、天女)が宇気持神を祀っていました。

こうして比較すると、両者甲乙つけがたい雰囲気になってきます。磯砂山側の藤社神社、久次岳側の比沼麻奈為神社のどちらが外宮の故地であるのか結論が出ないのも当然ですね。多分、同じ伝承が二つの場所で少し形を変えて伝えられ、宙ぶらりんな状態のまま現在に至ったのでしょう。この問題を片づけるには、二つの神社のありようをきちんと整理・再構成するのが早道と思われます。相当難しい作業ですが、取っ掛かりはありそうです。

「その70」で書いたように、元伊勢与佐宮は比治眞名井ヶ原と五箇村、丹波道主命が結び付いています。磯砂山側の藤社神社は五箇村鱒留に鎮座で、比治眞名井もありますが、この場所近辺に丹波道主命の館はありません。伊去奈子嶽の山名は伊弉諾尊に関係すると思われますが、それがどう転じて比治山となるのか繋がりは明確ではなさそうです。むしろ、久次岳が比治山に転じやすいと思われます。久次の意味などを探るため、比沼麻奈為神社の由緒書を参照します。

古蹟
久次(ひさつぎ)
太古豊受大神が御現身の折、五穀を作り蚕を飼って糸を取るなど、種々の農業技術をはじめられた尊い土地であるゆえ、久次比(苛霊)の里と呼ばれていたが、延喜年間、民部令により「比」の一字を削除して、久次の里(くしの里)となり、後世訓読して"ひさつぎ〃と呼ばれる様になったのは、徳川時代の事と言います。

久次嶽(真名井岳)
豊受大神が、稲作りなどの農業を此の山麓ではじめられた〃苛霊岳"であり、九州の天忍穂井の真名井の霊水を移された清水の湧き出る霊峰であるので、真名井岳とも言われています。此の山頂近く「大神杜」あり、古、大神鎮座の地と言い、干古不伐、老樹鬱蒼とした中に巨岩塁々として、古より女人禁制の仙境であります。
此の森の近くに「降神岩」、中腹に真名井の水を移されたと伝えられる「穂井の段」、大神が五穀や種々の御饌物を天神に奉られた机代の石と博えられる「応石(おおみあえ石)」があります。

太古豊受大神が御現身の折、五穀を作り蚕を飼って云々」とありますが、これは神として祀られる前の、現世に生を受けたとある人物(多分女性)が、久次で農業の振興に努めたことを意味します。その人物は後に神として祀られ、最終的には豊受大神に変容。比治の里を離れて伊勢神宮外宮に遷座しました。従って、そこに至るまでの経緯をきちんと整理する必要があるでしょう。その作業も元伊勢問題を解く鍵の一つになるはずです。

現在の久次岳(ひさつぎだけ)は久次比岳=苛霊岳(くしひだけ)で、民部令により「比」の一字を削除して久次岳(くしだけ)となり、それが訓読されて久次岳(ひさつぎだけ)へと変遷したものです。「丹後舊事記」では咋石嶽(くいしだけ、くしいしだけ)ですが、これは宇気持神の死形がある岩にちなんで表記されたものと推測され、音や意味は苛霊岳と基本的に同じになると思われます。

上記の「苛霊」は一般的には奇霊と表記し、人知で計り知ることができぬ霊妙不思議なさまを意味しています。つまり、久次岳はそれほどの霊妙な聖山と言えるのです。「その59」で以下の内容を書いています。

奇霊は一般的に(くしひ、くしび)などと読み、人知で計り知ることができぬ霊妙不思議なさまを意味しています。「丹後国風土記逸文」には天橋立に関して以下の記載がありました。

与謝の郡。郡役所の東北隅の方向に速石の里がある。この里の海に長くて大きな岬がある。 前の方の突出部を天の椅立(はしだて)と名づけ、後の方を久志の浜と名づける。そういうわけは、国をお生みになった大神の伊射奈芸命(いざなぎのみこと)が天に通おうとして梯子を造り立てたもうた。それ故に天の椅立といった。 ところが大神がお寝みになっている間に倒れ伏した。そこで久志備(くしび・神異)であられると不思議にお思いになった。それ故、久志備の浜といった。中ごろから久志というようになった。

上記から奇霊→久志備→久志へと変化している様子が見て取れます。記紀にも同じような記述がないか探してみます。「日本書紀」(岩波書店)の神代下第九段は天孫である瓊瓊杵尊が降臨する場面となりますが、槵日(くしひ)の二上の天浮橋より、浮渚在平処に立たして、云々との記述があります。その注釈には「クシヒは、奇シ霊(ヒ)の意。また、クジフルタケのクジに代わる言葉であろう。」と書かれていました。また猿田彦が「天神の子は、当に筑紫の日向の槵触峯(くじふるのたけ)に到りますべし」と言う場面もあります。

宮崎県西臼杵郡高千穂町には槵触神社(くしふるじんじゃ)が鎮座しており、その近くには天真名井(あめのまない)も存在します。天真名井は天孫降臨の際に、地上に水がなかったため天村雲命が天真名井の水種を移されたと伝わる井戸となります。

これらから抽出できるものがあります。そう、降臨伝説と槵触峯、天真名井はセットになっているのです。一方丹後には豊受大神や天火明命の降臨伝説、真名井が存在していました。となると丹波にも、槵触峯(くじふるのたけ)に相当し(くしび、くしひ、くし、くじ、くひ)と言った読みを持つ山が存在しているはずでが、それを検討するのはもっと後の回となりそうです。

いかがでしょう?「その59」からの引用の最後の部分がここへ繋がってきました。さてそこで、伊去奈子嶽=比治山の部分を考えてみます。伊去奈子嶽が伊弉諾尊に関係する山名であれば、もちろんそれは聖なる山と言えます。けれども、比治山の比治(ひじ)は久次(くじ、くひ)が転じたものとも考えられ、伊去奈子が比治に転じるのは、意味を取り上げれば可能ですが、音からすれば困難と思われます。

以上を総合的に勘案すると、外宮の故地は久次岳側(比沼麻奈為神社だが、まだ確定できない)が磯砂山側(藤社神社)よりもやや優位にあると言えそうです。しかし、これだけではとても断定はできないので、別の観点からさらに追及を続けます。

           尾張氏の謎を解く その74に続く
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