尾張氏の謎を解く その77


前回で丹波道主命(彦坐王)の館の所在地や解説文の内容を検討し、ここが天照大神と豊受大神の元伊勢与佐宮だと位置付けしました。その場合、元伊勢と主張している比沼麻奈為神社はどうなるのか、どう位置付けられるのかと言う問題が出てきます。

比沼麻奈為神社の主祭神が豊受大神で元伊勢を主張している以上、この問いは、終局的には豊受大神とはどのような神であるのかに収斂しそうに思えます。(注:比沼麻奈為神社が天照大神の元伊勢与佐宮を主張していない点はお含み置き下さい)

この部分をきちんと整理しない限り元伊勢の問題は片付かず、最後の難関になりそうな予感があります。早速比沼麻奈為神社に行きたいと思いますが、「その73」でアップした同社の由緒書の中に以下の気になる部分がありました。

大神が五穀や種々の御饌物を天神に奉られた机代の石と博えられる「応石(おおみあえ石)」があります。

これに関連すると思われる記事が、「丹後舊事記」の咋石嶽の項(原文はコマ番号85)に見られるので、内容を再掲します。

咋石嶽。この地は遠い昔与謝郡内にあったが、和銅六年国造の後に丹波郡となった咋村の後の山を指す。俗に久次嶽と言う(久次はクシのかな書である)。神記に言うには、日本紀の伝神社の部に記すこの場所は、宇気持神が天下った地である。山頂に二間四方平面の岩があり、昔はこの岩を以て神と崇め祀ったとか。岩の面に人の死形があり、これは宇気持神の亡くなられた姿形であると伝えられている。

「丹後舊事紀」の咋岡神社の項(原文はコマ番号94)には以下の記載がありました。

吾歌佐歌村、祭神 篠箸大明神、豊宇賀能賈命
咋岡神社は、むかし久次村に咋石嶽と言う山があり、ここに豊宇気持命を崇め祀っていたところ、一色の武臣飯田越前が神領神殿を破則するのを惜んで峯山に遷し、後に赤阪村に祀った。宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。


上記の三つの記事の中には、まだ十分ではないものの、豊受大神の原初の姿が描かれているように思えます。様々な角度から豊受大神の原初を探り、それがどう豊受大神へと変貌していったのかを解き明かすことが今回の検討課題となりそうです。

まず「丹後舊事紀」にある咋岡神社の項を参照ください。ここに「宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。」と書かれています。化現とは神仏などが姿を変えてこの世に現れることを意味します。つまり、宇気持神(うけもちのかみ、保食神)が死んで姿を変え現れたのが豊宇賀能咋命(豊宇賀能売命、とようかのめのみこと)と言うことになります。しかしそれだけでは意味不明なので、意味が通るように再構成し直す必要があるでしょう。

宇気持神を祀るのは八乙女(天女、巫女)であり、豊宇賀能売命とは八乙女の一人を意味しています。八乙女(の一人)が豊宇賀能売命であるのは、丹後国風土記逸文の奈具の社の項に、「天女が奈具の村に至り心が平和になってこの村に留まり住んだ。これが奈具の社におられる豊宇賀能売命(=豊宇賀能咋命)である。」と書かれていることからも確認できます。

となると、「宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。」とは、死んだ宇気持神が八乙女に姿を変えて現れたと言うことになり、やはり意味が通じません。これを意味が通じる話にするため、もっと現実的に考えてみます。

よくあるケースですが、神が巫女に憑依するのは現代でも見られます。実際には、神祭りをしている巫女がトランス状態になり、神が乗り移ったかのごとき言葉を発するのです。いわゆる神憑りですね。神祭りに参加していた人たちは、神が巫女の口を借りて自分たちに託宣したと思うでしょう。それが何度も続けば、人々は巫女を神そのものとして崇めることになるのです。このような経緯により、神を祀っている側の巫女が神へと変容します。

上記の視点から「宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。」の記述を解釈すれば、死んだ宇気持神を祀る八乙女に宇気持神が憑依して、八乙女は豊宇賀能売命に変容した、となります。祀る側の巫女が祀られる側の神に変容するのは、天照大神の場合もほぼ同様です。これで、「宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。」の部分の整理が付きました。

宇気持神を祀る八乙女は以上のような回路を経て豊宇賀能売命に変容しました。さてそこで、奈具の社の全文を読めば、天女(八乙女)が豊宇賀能売命に変容する過程に和奈佐夫婦(海部氏)も影響を及ぼしていたと理解されます。

よって、真名井神社が元伊勢与佐宮でないとしても、海部氏は豊受大神を祀る資格を有していると考えられます。また豊宇気大神(豊受大神)が丹後国の伊去奈子嶽(磯砂山)に天下り云々と「丹後風土記残欠」の記事に出てくるのは、磯砂山側が海部氏の関係地であることによるものと思われます。

豊宇賀能売命に変容した巫女は、府の丘に遷座した天照大神(豊鋤入姫命一行)も饗応します。これを契機として、単なるローカル神に過ぎなかった豊宇賀能売命は、最終的に全国区の豊受大神へと変容したのです。豊受大神が伊勢において天照大神と並び祀られる資格を得た理由はここにあったと言えるでしょう。

ほとんど人状態の最初の神(宇気持神、保食神)が死に、この神を祀る巫女が祀られる側の豊宇賀能売命に変容し、さらに偉大な神・豊受大神へとステップアップしていく過程が見て取れますね。(注:豊受大神への変容は、雄略天皇の御代、伊勢に遷座する段階で起きた可能性もあります)

いずれにしても、上記のような段階的推移があったと考えれば、宇気持神(保食神)と、豊宇賀能売命(八乙女、天女、巫女)、豊受大神の混同は何とか避けられます。少し前で書いたように、この構造は天照大神の場合と似通っています。

天照大神も当初は太陽を祭祀する日女(ひるめ、巫女)に過ぎませでした。日女は杼(ひ、たて糸の間によこ糸を通すための道具)で陰部を突いて死んだことから天の岩屋戸に入ります。そして岩屋戸から出てくるときは太陽神・天照大神となって再生するのです。保食神(宇気持神)の場合は、死んだ後豊宇賀能売命の段階を経た上で、豊受大神に再生した形となります。天照大神と豊受大神が同じ伊勢で祀られているのは、そうした類似性も影響しているのではないでしょうか?

話は変わります。比沼麻奈為神社の由緒書や「丹後舊事記」の咋石嶽に関する記事を読んでいて、「日本書紀」に書かれたある記事が頭に浮かんできました。「日本書紀」によると、月夜見尊(月読命)は天照大神の勅命で葦原中国にいた保食神(うけもちのかみ)の元に降ります。保食神は月夜見尊を饗応するため口から様々な食物を取り出し、百机(ももとりのつくえ)に置いて饗(みあへ)奉りました。月夜見尊は、保食神が口から吐いた汚らわしい物を食べさせようとしたと勘違いし、剣を抜いて斬り殺してしまいます。

「日本書紀」では保食神が月夜見尊に斬り殺されて死んでいます。丹波の史料では保食神が死んだことしか書かれていないようですが、月読命も登場しているのではないかと疑われます。

大神が五穀や種々の御饌物を天神に奉られた机代の石と博えられる「応石(おおみあえ石)」があります。」と書かれた比沼麻奈為神社由緒書の内容。「丹後舊事記」にある咋石嶽の記事。それに「日本書紀」の内容を繋ぎ合わせて丹波の伝承を考えると、宇気持神は机代(=百机、山頂にある二間四方平面の岩)に食物を置いて月読命をもてなそうとしたところ、誤解により斬り殺されてしまい、その死形が岩(応石、おおみあえ石)の面にあるとなりそうです。

そう考えられないか比沼麻奈為神社の宮司さんにお聞きしたところ、まさにその通りで地元にそうした話が伝わっているとのことでした。ネット上でチェックした結果、以下の内容となっているようです。

咋石嶽は豊受大神の現身の移り住まわれた地で、神代に月読命を饗膳したことにより斬り殺された土地である。今も大饗石があるがこれは饗膳を供した霊跡である。その下に御手洗滝があるが、これは豊受大神を切った月読命が手を洗った神跡と伝わる。その上には大神社というところがある。その右の方に来迎山がある。これは月読命を豊受大神がお迎えした古跡である。切果渓(この谷の下に桐畑村あり)は豊受大神を月読命が切り果たした地であると伝わる。

現身(うつしみ)とは現世に生を受けている姿を意味します。現身は生身の人間ですが、原初の神としての宇気持神(保食神)でもあります。なお地元の伝承では月読命が豊受大神を切り果たした、となっていますが、斬られた神は宇気持神(保食神)であり、豊受大神ではありません。こうした混乱はあらゆる場面で見られますので、頭の中で整理しておかないと訳がわからなくなります。

大饗石は比沼麻奈為神社の背後北西に聳える久次岳にあり、石の名前は今回の記事の最初に書いた応石(おおみあえ石、應石)のことです。場所は五箇小から比沼麻奈為神社に向かって歩き、道が二手に分かれるところで神社に向かわずそのまま歩けば久次岳への登山道となり、この道を一時間ほど登ると到達するようです。けれども、暑すぎますし時間的な余裕もないので應石へと向かう登り口まで行ってみました。


登り口の位置を示すグーグル画像。

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應石の案内板。

グーグル画像のほぼ真ん中辺り、白く表示された道が尽きる位置付近に案内板があり、ストリートビューで案内板を見ることもできます。應石の写真がないかとネット上で探したところ、何と動画がアップされていましたので以下を参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=QayCFGQon2A

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案内板の先の久次岳へ至る道。

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久次岳。聖なる山としての風格があります。

259_convert_20150730065118.jpg
もう一枚。

写真は笛原寺に行く途中で撮影したものですが、実にいい雰囲気です。

290_convert_20150730064959.jpg
横穴が幾つかありました。

須恵器や土師器などが発見されたのはここでしょうか?

どうやら、丹波における豊受大神の原点は應石にあるようです。現場まで行けなかったのは残念ですが、今となってはどうしようもありません。けれども、豊受大神の原初の姿をほぼ復元・再構成できたのではと思っています。

一方比沼麻奈為神社の元伊勢問題に関しては、今回で検討するまでに至りませんでした。比沼麻奈為神社の鎮座位置や應石が同社の古跡である点などを考慮すると、外宮の故地としての資格を十分持っているようにも見えてしまいます。この問題は、次回同社を訪問した上で検討することにします。

          尾張氏の謎を解く その78に続く
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実感しています。。。ありがとうございます。

酔石亭主様、
たびたびのコメントすみません。。
とても興味深いご示唆にまた改めて共感しています。
記事中に記されている;

よくあるケースですが、神が巫女に憑依するのは現代でも見られます。実際には、神祭りをしている巫女がトランス状態になり、神が乗り移ったかのごとき言葉を発するのです。いわゆる神憑りですね。神祭りに参加していた人たちは、神が巫女の口を借りて自分たちに託宣したと思うでしょう。それが何度も続けば、人々は巫女を神そのものとして崇めることになるのです。このような経緯により、神を祀っている側の巫女が神へと変容します。
上記の視点から「宇気持神の化現が豊宇賀能咋命である。」の記述を解釈すれば、死んだ宇気持神を祀る八乙女に宇気持神が憑依して、八乙女は豊宇賀能売命に変容した、となります。祀る側の巫女が祀られる側の神に変容するのは、天照大神の場合もほぼ同様です。

の箇所に関して、これまで10年程欠かさず続けさせていただいている毎週末の「神社でのめでぃてーしょん」等を通じて、「わたし」の場合には「脱魂型」と「憑依型」の複層的且つ融和融合的なシャーマニック状態(変成変容意識状態)をいただきます。そして日常生活等を通じてこれまで幾度も「自殺願望(希死念慮)」が生じた際には「不要なペルソナのアポトーシス」も生じ、次第に「自己意識」が昨今では「しんえん(深遠/深淵/神苑/神縁)意識」に「常時変容」しているとも感じ/観じられています。
「みちのかみ」「やみわかみ(「やみ」と「かみ」が「わ」した存在=すべて)」『すべて』「しぜん(自然/至全/至善)」と意識が変容し、「過去からの個人的なペルソナ」のみならず「トランスパーソナル的」で「地球俯瞰的」な「宇宙のようなしんえん(深遠/深淵/神苑/神縁)意識」が融和融合している「いま」の「わたし」であると表現しても過言ではないかと感じ/観じています。
「やみわかみ」に関して、昨今は(これまで「かみ」の陰に隠れていた、隠されていたような)「やみ」までもが「このよ」に顕現して、「このよ」人類をさらに成熟「しんか」させるよう「やみ」の「ふかい」愛(「しんあい(真愛/神愛)」をも感じ/観じさせてくださいます。
以上の観点からも、「死んだ宇気持神を祀る八乙女に宇気持神が憑依して、八乙女は豊宇賀能売命に変容すること」は、とても共感できる観点です。
ただし「死すること」は「肉体的(物質的)」観点であり、「やみ」も「かみ」も物質だけ等には偏向しないので、「死んだ宇気持神を祀る」とは、つまり「肉体的に宇気持神から乖離解脱した霊的エンティティー(存在)を祀る」という理解が可能だと感じ/観じております。
とてもとても「しんえん(深遠/深淵/神苑/神縁)」なる示唆や記事に重ね重ね感謝しています。
酔石亭主様、
ありがとうございます。
まがたまぱじゃま。
全感謝。

Re: 実感しています。。。ありがとうございます。

まがたまぱじゃま様

コメント有難うございます。
私は神の変容する過程を心的な角度から検証しただけで、まがたまぱじゃまさんのように実体験できている訳ではありません。
まがたまぱじゃまさんの場合、仏教的に言えば、宇宙の原理である大日如来に同一化を果たしているようにも思えます。

私がそうした境地に至る可能性はゼロなので、理論面でアプローチするしかなさそうです。
秦氏の謎を解くシリーズではそうした部分もある程度書いています。

暑い毎日が続いていますがご自愛ください。
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