尾張氏の謎を解く その129


今回は元伊勢中島宮の可能性が最も高そうな酒見神社を探索します。鎮座地は一宮市今伊勢町本神戸字宮山1476。祭神は天照皇大御神、酒弥豆男神(さかみづおのみこと)、酒弥豆女神(さかみづめのみこと)となります。なお、「尾張国地名考」によれば鎮座地の宮山は美和山(みわやま)で、酒見の見は水の略語であり外宮酒殿に坐す、酒水雄神、酒水女神だとしています。上記から、酒見神社は大三輪氏の領域内に鎮座していたことになりそうです。


鎮座地を示すグーグル地図画像。

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鳥居です。

皇大神宮御聖蹟とあります。明らかに元伊勢中島宮を意識されているようです。

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酒見神社解説板。

祭神「天照皇大御神、倭姫命、酒弥豆男神、酒弥豆女神」
第十一代垂仁天皇の王女倭姫命が伊勢の地を求めて旅される途中、垂仁天皇の十四年(紀元646年)六月一日当村に渡来された際、村民の奉仕により社が建設せられたのが酒見神社の始めであり出来上がった社は総丸柱で草屋根にて高く後世に吹抜きの宮と呼ばれたと言います。現在に伝えるのが本殿裏に祀る倭姫神社であります。第五十五代文徳天皇斎衛三年九月(紀元1514年)、当村は上質の米が取れることから遣唐使でもあったと言われる大邑刀自(おおむらとじ)、小邑刀自二人の酒造師が皇太神宮から大酒甕二個を携帯され当宮山に遣わされ、伊勢の翌年の祭に供える酒を造らしめた、と文徳録にあります。当時、どぶ酒等は各地で醸造されていましたが、清酒の醸造は酒見が最初とあり、酒見神社は清酒醸造の元祖の神社という事になります。
…以下略。

解説文の内容を検討していきます。紀元646年は皇紀646年なので西暦では紀元前15年ですが、実際には4世紀前半~半ばの話となるはずです。この頃に倭姫命は同地を訪問し、一宮市今伊勢町本神戸北無量寺14にある無量寺(当時の神戸屋敷)を宿舎にしたとされます。神戸(かんべ)は神宮の封戸を略したもので、この場合は伊勢神宮への貢物を奉献する神領地となります。伊勢神宮成立の前段階で神領地など存在するはずもないのですが、まあそれは問わないことにしておきましょう。


無量寺の位置を示すグーグル地図画像。

吹抜きの宮は丸柱を立て草で葺いた屋根を持ち、吹き抜けで造られたもののようで、本殿裏の倭姫神社が当時の様子を伝えているとのことです。どんな形状かおおよそ想像はつきますが後でチェックしてみたいと思います。由緒の前半は倭姫命に関係した話になりますが、後半は一転してお酒に関連した内容が書かれています。

斉衡3年(856年)、文徳天皇の時代に伊勢神宮から、大邑刃自(おおむらのとじ)と小邑刃自が大酒甕二個を携帯して派遣され、伊勢神宮にお供えする御神酒を造ったとのことで、酒見の社名もこれにちなんでいます。その際、二人は豊受大神宮(外宮)の御酒殿の祭神・酒弥豆男神、酒弥豆女神を当社に分祀したそうです。内容に具体性があり、酒見神社の実際の創建はこの時代だったのかもしれません。

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境内。藩屏、鳥居、拝殿と並んでいます。

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拝殿です。

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本殿。

拝殿、本殿共に逆光で写りが悪くなっています。元伊勢に関係しそうな材料を探してみると、何やら岩らしきものが祀られていました。

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石槽とあります。

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石槽を撮影。

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石槽(いわふね)の解説。

上古・皇大神宮に進貢の神酒を醸したる器なり。なお本殿裏地中に白酒(しろき)黒酒(くろき)に用いたる大斎甕二個現存する。

斎甕(ゆか)とは神に供える酒を入れるために清めた甕(かめ)を意味します。上古・皇大神宮に進貢の神酒とありますが、実際には斉衡3年(856年)の文徳天皇の時代からなので、それほど古い話ではありません。この甕も倭姫神社同様本殿の裏にあるようです。

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石柱の解説。

磐船 本所は尾張神戸酒見御廚にて往昔皇大神宮へ奉納の白酒黒酒を醸造し此の磐船を以て搾取せり

なぜこの岩を磐船とも言うのでしょう。チェックしたところ、倭姫命が天照大神の御魂を奉じ磐船にお乗りになって当地に来たときとの伝説があったそうで、その伝説にちなみ磐船と呼ばれたようです。ところが、明治38年頃になって磐船は酒を醸す際に使用したものであると判明し、解説文にあるような説明に変わったものと思われます。明治維新のころまでは、子供の瘧(おこり)を落とすためにこの岩を少し割って持ち帰る風習もあったとのこと。

倭姫命もニギハヤヒのように磐船に乗って降臨したのなら面白いのですが、そうは問屋が卸さないようです。

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鏡の解説板。

目久井の車塚古墳から偶然発見された三面の内の一面とのことです。「尾張国地名考」を参照すると、この古墳も倭姫命と関係していました。

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「尾張国地名考」の記事。内容を以下記載します。

支村、目久井の切に方角山といふ山あり、世俗相伝ふむかし倭姫命、天照太神を負ひ奉りて此処にて四方を見定めたまひし故に号く…中略…寛政元年酉六月洪水の時方角山崩れて中程より神鏡三面剣太刀矛など数多出たりしを酒水の社内に納めたりき。


車塚古墳の位置を示すグーグル画像。

所在地は一宮市今伊勢町本神戸目久井(むくい)です。古墳の左側に赤い屋根の建物が並んでいます。伝承を踏まえると、酒見神社の鏡は倭姫命が持ち込んだものと思いたくなります。けれども、車塚古墳の築造は5世紀前半頃とされているので、地元豪族或いは大三輪氏系の墓と推測され、倭姫命とは関係なさそうです。

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社殿に向かって左手には皇大神宮遥拝所があります。

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遥拝所。 

吹き抜けの祠となっていますが、解説板に記載あった倭姫神社とは違うようです。

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霊水栄水の井(さかみのいど)。

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解説板。

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本殿裏。

前に二つあるのが白酒黒酒用の鎌倉時代に常滑で焼かれた大斎甕です。甕には布目があり、古瓦のようでその内に清水があり、甕の上は屋形で覆われていたとのこと。甕自体は見えませんが、屋形状の構造物で覆われています。なお、甕は現存しているとありますが、「古代尾張氏の足跡と尾張国式内社」によれば太平洋戦争の空襲で焼けてしまったようで、甕の跡、或いは酒造りに用いた清泉の跡とされています。

甕の背後、右側の社が吹き抜け状になっていますので、これが倭姫神社となります。社殿は北北東に向いており、伊勢神宮のある南南西方向に向かって拝礼する形になっています。倭姫命を祀る社なので拝礼の対象は当然内宮と思っていましたが、驚いたことに外宮でした。酒見神社祭神の酒弥豆男神、酒弥豆女神は外宮の酒殿神から勧請しているため、そうなったと考えられます。なお倭姫神社の左側の社は八幡社とのことです。

以上で解説板等に記載あった倭姫神社と二個の大斎甕(の跡地)は確認できましたが、酒見神社にある遺物(石槽、大斎甕、栄水の井)はいずれも酒に関係したものでした。外宮の祭神・豊受大神の前身である豊宇賀能売命(天女)も丹波編で見てきたように、酒とは深い関係があります。酒見神社の社名自体が酒水(さかみ)すなわち酒の醸造に使用される水を意味しており、それは霊水栄水の井(さかみのいど)の名前からも確認されます。

酒見神社本殿背後に鎮座する倭姫神社は元伊勢中島宮との関係を連想させるものの、その実体を探っていくと外宮と酒の関係に行き着いてしまいました。また酒見神社周辺には今伊勢や神戸など伊勢神宮に関係する地名があるものの、神社の遺物や関連する古墳、伝承は比較的新しく元伊勢時代との繋がりを示すものは少なそうです。

中島宮の前の伊久良河宮と後の桑名野代宮はいずれも4年間の奉斎期間があるのに対し、中島宮の滞在期間が三ヶ月と短かった点も影響していると思われますが、今回の探索において、酒見神社一帯が倭姫命の元伊勢中島宮であるとの確信は持てないまま終わりしました。なかなか一筋縄ではいかないようですね…。

           尾張氏の謎を解く その130に続く
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